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韓国:トップ女優の自殺、ネット規制強化へ サイバー侮辱罪導入し処罰も--政府

 韓国女優、崔真実さん(39)の自殺が、韓国社会を揺るがせた。トップ女優が亡くなったというだけではない。自殺の引き金が、インターネットで広まった中傷とされるからだ。「サイバー暴力」も指摘される韓国のネット事情を報告する。【ソウル西脇真一】

 

◆中傷書き込みやまず

 2日朝、ソウル南部の自宅のシャワールームで、崔さんが首に包帯を巻き付け死んでいるのを家族が発見。警察は自殺と断定した。

 崔さんは88年にデビュー。韓国では「万人の恋人」と呼ばれ、絶大な人気を誇った。元巨人投手、趙成〓(チョソンミン)さんと約4年の結婚生活の後、離婚。2人の幼児を育てながら仕事する姿も共感を呼んだ。離婚後、うつ病を患っていたという話もある。

 自殺の引き金とされるのは「貸金業をしており、9月に自殺した男性タレントに金を貸していた」というネットで広まったうわさだ。崔さんは睡眠を削り、サイトの書き込みをチェックしたという。

 崔さんの死後も「よくやった」といった中傷の書き込みが続いた。

 一方、うわさをネットに流したとして警察の事情聴取を受けた証券会社の女性社員(25)は、実名などの個人情報がネットで流された。この女性は、事情聴取の後に捜査員にスマイルマーク付きの携帯メールを送ったことまで暴露され、退職に追い込まれた。

 韓国では崔さんの他にも昨年、人気女性タレント2人が自殺。ネットで広まった整形手術を巡る中傷に悩んでいたと報じられた。

 事態を重く見た韓国政府は、対策に乗り出した。政府は元々、大規模サイトの運営者に対し、利用者の実名を登録するよう義務付けている。ユーザーは書き込みする場合、まず住民登録番号と氏名の照合を受けたうえで、実名で会員登録することが必要だ。政府は、登録義務を負うサイトの規模を、1日あたり利用者数「20万~30万人以上」から「10万人以上」に引き下げる方針。実名登録が必要なサイトは37から178に増える。

 さらに、政府と与党ハンナラ党は、こうした「サイバー暴力」を規制するため、新法制定を主張。法案は当事者の告訴がなくても捜査や処罰ができる「サイバー侮辱罪」を導入、罰則も刑法の侮辱罪より厳しくする。ただ、これには野党などから「表現の自由を奪う」「言論統制につながる」と、激しい反発が起きている。

 

◆際立つ普及度の高さ

 崔さんの自殺の背景には、韓国でのインターネットの普及度の高さのほか、書き込みの活発さ、ネット上の中傷の横行がある。

 「朝鮮族は同胞ではない」--。ソウルで20日に起きた無差別殺人事件を伝えるニュースの読者コメントに冷たい言葉が寄せられた。死傷した13人のうち5人は中国から出稼ぎに来た朝鮮族だった。

 韓国ではブログや掲示板、ニュースなどあらゆるサイトに自由に意見を書き込める「デッグル」欄がある。有力紙「朝鮮日報」の場合、「賛成・反対の多い順」など記事の最後にある項目をクリックするだけで、瞬時に書き込みが表示される。

 多様な意見を知る場として評価される半面、「アクプル」と呼ばれる悪意のあるコメントや、うその記述も瞬く間に伝わる。

 経済協力開発機構(OECD)によると、07年末時点の人口100人あたりのブロードバンド(高速インターネット回線)契約者数で、韓国は30・5人と加盟30カ国中7位。17位の日本の約1・4倍にもなる。韓国警察庁によると、ネット上で悪口を書かれるなど「名誉を傷つけられた」との申告があったのは03年に約4900件だったが、07年は約1万2000件に増えた。

 また、デッグルにひどい悪口を書かれたとの申告を受け、法に基づいて設立された民間の「放送通信審議委員会」が審議した件数は、05年に約3000件だったが、07年は約3万5000件と10倍以上に増えた。

 

◆「うわさ」の影響力大

 一方、ネットでの「うわさ」が好まれる文化的な背景もある。

 韓国人は「議論好き」と言われるが、日本のワイドショーのような芸能ゴシップを取り上げるメディアは少ない。このため、ネットの「うわさ」が影響力を持つとも言われる。ソウル在住の女性は「話題のゴシップを何とかネットで見つけ出し、取引先に届けるのも営業マンの仕事のうちと聞く」と苦笑する。

 また、韓国が自殺大国であることにも注意が必要だ。内閣府の07年版自殺対策白書の国際比較によると、人口10万人当たりの自殺者数を示す「自殺死亡率」は、04年が23・8と日本の24・0と肩を並べる高さだった。

 
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◇「実名」でも抑止力に疑問--園田寿・甲南大法科大学院教授
 日韓のネット事情に詳しい園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)に話を聞いた。【聞き手・臺宏士】

 --韓国の人気女優のネットでの誹謗(ひぼう)・中傷を苦にした自殺は日本にも大きな衝撃を与えました。

 ◆日韓のネット社会の大きな違いは、韓国ではアクセス数の多いサイトの書き込みの利用に情報発信者の特定が容易な住民登録番号が必要なことだ。日本ではネット社会は匿名だと言われるが、韓国では実名制に近いと言える。事実上、実名であっても書き込みは収束しないという違いがある。

 --日本でも芸能人への中傷はあります。

 ◆韓国にはワイドショーや週刊誌、夕刊紙のような芸能人の話題を取り上げる媒体が多くないと言われている。急速に普及したネットがこうしたゴシップの受け皿になり、いわばゴシップ文化がネット上に一気に広がった。ゴシップに対する経験が浅いだけに、韓国の芸能人は深刻に受け止め過ぎ、相当な心理的な負担になったのではないか。「有名税」のようには感じなかったのかもしれない。一方、書き込んだ大半のユーザーは、井戸端会議の延長という程度の認識だったのではないか。

 --女優は自殺にまで追い込まれました。

 ◆韓国社会ではしばしば強烈なアピールとして自殺が行われることがある。例えば、今年6月に米国産牛肉の輸入制限解除に抗議する集会に参加していた男性が焼身自殺を図って大やけどをした。女優に抗議の意識があったのかはわからないが、彼女の自殺を強い抗議や怒りだったと受け止めた韓国の人は多かったのではないか。自殺をめぐる国民性の違いも考える必要があると思う。

 --韓国政府は、実名登録制の強化やサイバー侮辱罪の創設などネット規制強化に乗り出すようです。

 ◆今回の問題は、他人を誹謗・中傷する書き込みは匿名でなく、実名でも行う人がいるということを明確にした。実名登録の範囲を広げたとしても実効性は期待できないだろう。また、サイバー侮辱罪を設けても強盗や殺人のような重い刑罰を科すことは難しく、犯罪の抑止効果は低いのではないか。実名登録制やサイバー侮辱罪を日本で導入しても決め手となる解決策にはならないだろう。





毎日新聞 2008年10月27日 東京朝刊

by exjwq9 | 2008-11-16 12:32  

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